デジタル通貨により給与支払いが2023年春頃から解禁予定というニュースが最近ありました。キャッシュレス決済の普及で、コード決済や電子マネー等が一般的になりつつありますが、具体的にデジタル通貨のカバーする範囲はどうなるのでしょうか。これらについて調べてみました。
デジタル通貨とは
デジタル通貨とは、電子情報で決済を行うことができるもので、大きく民間のデジタル通貨と中央銀行が発行するデジタル通貨があります。
民間デジタル通貨
主なデジタル通貨は次のとおりですが、暗号資産(ビットコインやイーサリアム等)については価格変動が激しく給与支払いの対象外なので省略します。
- コード決済:「PayPay」「楽天Pay」「d払い」「auPAY」「LINE Pay」等で店頭にあるコード(QRコードやバーコード)をスマホで読み取るか、店員さんに自分のスマホに表示したコードを読み取ってもらって決済します。
- 電子マネー:交通系の「Suica」や「Pasmo」、流通系「Edy」や「nanaco」、「WAON」などです。
- 国際ブランドプリペイド:VISA、Mastercard、JCBなど、国際ブランドの加盟店で利用可能なプリペイドカードです。プラスチックカード型、スマホなどを媒体をつかった非接触型などがあります。
ここは下記のサイトを参考にさせていただきました。分かり易いサイトです。
中央銀行デジタル通貨
中央銀行デジタル通貨(以下CBDC: Central Bank Digital Currency)とは、中央銀行が発行するデジタル通貨で、次の3つを満たすものと言われています。
- デジタル化されていること
- 円などの法定通貨建てであること
- 中央銀行の債務として発行されること
日本でいえば日銀が発行するデジタル通貨になります。CBDCは、世界の中央銀行が一斉に取り組み始めており、デジタル元もその一つです。
現時点において日本銀行は、そうしたデジタル通貨を発行する計画はありませんが、検討はされているようです。
時期が明確になった根拠
デジタル通貨による給与支払いについては、厚生労働省・労働政策審議会・労働条件分科会で検討が進められていますが、それが加速・明記されたのは「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」(2022年6月7日閣議決定)の次の項目です。
- Ⅲ.経済社会の多極集中化
2.一極集中管理の仮想空間から多極化された仮想空間へ
(4)Fintechの推進- 資金移動業者の口座への賃金支払について、賃金の確実な支払等の労働者保護が図られるよう、資金移動業者が破綻した場合に十分な額が早期に労働者に支払われる保証制度等のスキームを構築しつつ、労使団体と協議の上、2022年度できるだけ早期の制度化を図る。
同様の内容が、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(2022年度改訂)」(令和4年6月14日外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定)にもみられます。
なお、厚生労働省・労働政策審議会・労働条件分科会の議事や資料については、次のサイトをご覧ください。
課題
労働基準法24条(労働基準法第24条1項ただし書、労働基準法施行規則第7条の2)等に「賃金支払いの5原則」という法律があります。これは次のとおりです。
- 現物給付の禁止(通貨払いの原則)
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上の原則
- 一定期日払いの原則
現在は、給与の多くを銀行振込で受取っていますが、これは、例外的に労働者の同意を得た場合は銀行口座への入金が認められているためです。ただし、これも現金を原則とすることは変わっていません。
これらに対してデジタル通貨での給与支払いの制度設計案の概要は次のとおりです(2021年4月19日労働条件分科会資料を若干編集)。なお、資金移動業者とは送金や決済などの為替取引をする銀行以外の事業者(○○Payや電子マネーを取扱う業者)のことです。
- 使用者は、労働者の同意を得た場合には、資金移動業者の口座に賃金振込ができます。ただし、従来の銀行口座等への振込は、引き続き可能です。また、資金移動業者の口座への賃金支払について、使用者が労働者に強制しないことが前提です。
- 資金移動業者の口座への資金支払が認められる要件:次の①~⑤全ての要件を満たす必要があります。
(指定の要件)- 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
- 労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により労働者に損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
- ATM等により口座への資金移動の金額が1円単位ででき、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担無しに受取ができること。
- 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
- ①~④のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。
- 厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動業者は、①~⑤の要件を満たすことを示す申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。厚生労働大臣は、指定を受けた資金移動業者が①~⑤の要件を満たさなくなった場合には、指定を取り消すことができる。
簡単に言えば、次の2点です。
- 現金での支払いや銀行口座への振込み等に限られていた賃金支払いを、労働者本人の同意を前提に、資金移動業者の口座への支払いも解禁する。
- 解禁の前提として、万が一、資金移動業者が破綻した場合であっても、十分な額が早期に労働者に支払われる資金保全手段を講じる。
現在、これらの案を基に検討が進められています。
さいごに
2023年春頃に給与のデジタル通貨支払いが始まるという事は、これから○○Payや電子マネー業者である資金移動業者の動きが活発になってきそうです。日経新聞でも9月13日付で「スマホ決済のPayPayや楽天ペイが、デジタル給与の受け取りサービスへの参入を検討していることを明らかにした。」という記事がありましたが、他の事業者もこれから明らかにしていくと思います。
キャッシュレス決済の市場が既に形成されていますので、制度設計をしっかり行えば普及は早いと思いますので、付随するキャンペーンに期待しつつ注視していきたいと思います。
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