家族信託と任意後見の違い、認知症発症前に押さえておくべき事

親や自分が認知症になった場合は、銀行口座等が凍結され、家族がその口座のお金を介護施設や医療費等に使う事ができなくなります。これを防ぐためには事前に家族信託や任意後見を考えておくことが必要です。この両者の違いを説明します。

認知症発症時に想定される不都合な事

万一、自分の親や自分が認知症にかかった場合、その症状が重いと自分の親や自分の銀行口座が凍結されます。そして、その口座を利用するためには、銀行から法定後見人を選ぶように勧められます。

また、銀行口座の他に、不動産の処分や保険の解約返戻金手続き等ができなくなります。

法定後見人は、家庭裁判所が弁護士等からふさわしいと思える方を選んでくれますが、7割以上は家族等親族では無く赤の他人です。

また、一旦選ばれると被後見人(後見される方、つまりこの場合認知症にかかった方)が亡くなるまで費用が発生したり、不満があっても勝手に罷免できないなど、使い勝手が良くなく改善の議論が良く出てきています。

このため、事前に考えておく必要がありますが、その有力候補が任意後見と家族信託があり、特に最近では、家族信託が注目されています。

そこで、まず任意後見と家族信託を簡単に説明し、その後で両者を比較してみたいと思います。

任意後見とは

後見制度は、法定後見と任意後見があります。

このうち、任意後見とは本人がまだ判断能力があるうちに任意後見人を選定し、本人に代わる権限を契約により明記するものです。

任意後見は、公正証書(法律の専門家が作成する公文書)の形式で契約し、家庭裁判所ではなく公証役場から東京法務局に任意後見登記の手続きが取られます。

なお、監督人は、家庭裁判所が選びます。

後見制度については次の記事をご覧ください。

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信頼

家族信託とは

信託業務を行うことのできるところは、以前は信託銀行だけでしたが、平成19年(2007年)の法律改正により、信託業の免許を持たない人でも、営利目的としないで、特定の人から1回だけの条件で信託を受託できるようになりました。これを民事信託といいます。

「家族信託」とは、家族が民事信託を行うことで、一般社団法人家族信託普及協会の商標登録です。以下「家族信託」で通します。

この制度により親や自分が認知症になった場合、家族の方が財産を安全に管理できるようになる事が期待されています。

家族信託と任意後見の比較

それでは、家族信託と任意後見はどのような違いがあるのでしょうか。下記の表で両者を対比しながら見ていきたいと思います。

家族信託と任意後見の比較

信託の範囲(目的)

家族信託は、財産の管理・継承で財産に係ることのみです。元々、信託の意味は財産を託するというですので、この「家族信託」の言葉を使う限り、財産に係ることだけになります。

任意後見は、身上監護があります。身上監護とは、被後見人の医療・介護・施設等の契約や意思確認等のことです。また、財産管理についても職務の範囲です。ただし、あくまでも代理としての業務遂行となります。

選任方法・監督人

家族信託は、公正証書による契約により、自由に選任できます。監督人は、特に選ぶ必要はありません。

任意後見は 、公正証書による契約により、自由に選任できます。 ただし、開始する場合は、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てを行い、選任してもらう必要があります。この選任後に任意後見人は、代理権を行使することができます。

財産管理の権限

家族信託は、公正証書の契約書に規定した範囲で権限があります。

任意後見は、公正証書の契約書の範囲ですが、あくまでも代理権ですので本人(被後見人)が結んだ内容について取消権はありません。

死後の財産の管理処分

家族信託は、公正証書の契約書の範囲ですので、本人が亡くなった後の財産の処分等を託すことも可能です。つまり、財産の承継を2代先、3代先でも可能です。

任意後見は、本人(被後見人)が亡くなった時で終了します。

費用

家族信託は、信託財産の価値に依りますが5千万円程度とすると、初期費用70万円から100万円です。継続費用はありません。

任意後見では、家族に後見してもらう場合は初期費用・継続費用共に無しです。なお、法定後見の場合は、初期費用10万円以上、継続費用3~6万円/月ぐらいのようです。

さいごに

家族信託と任意後見を比較して見ました。

費用的には、家族信託は初期費用が100万円前後 (信託財産5千万として、継続費用は不要) かかりますので、ばかにできない金額です。

しかし、家族信託の方は契約での自由度が高く、亡くなった後の財産承継も可能ですので、万一の時の有力な対策候補だと思います。

あまり考えたくない認知症ですが、これからの高齢化社会では避けて通れませんので、まじめに対応を考えていきたいと思います。

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