在職老齢年金の計算式と支給停止基準(月の収入により支給調整が行われます)

60歳以降も引き続き会社に勤め給与を得ている方は、一定年齢になると報酬比例分の老齢厚生年金(在職老齢年金)を受給することができます。この受給額は、受給されている老齢厚生年金の月額と総報酬月額相当額により、年金額が調整されますが、平成31年(2019年)4月1日より年金の支給停止の基準となる額が変更になりましたので、これを含めて説明します。

在職老齢年金とは

日本の年金には、主に国民年金(自由業)と被用者(企業や公務員等)が加入する厚生年金があり、厚生年金には、定額部分(国民年金の老齢基礎年金に相当する)と報酬比例部分があります。

厚生年金の報酬比例部分は、 男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれ、女性の場合は昭和41年4月1日以前に生まれと一定の要件を満たせば、65歳前に特別支給の老齢厚生年金を受け取ることができます。

在職老齢年金とは、年金の受給資格がある年齢でもまだ会社等にて働いている方に対して支給される年金のことです。在職老齢年金は、受給できる年金の月額と給与等による総報酬月額相当額の金額により、年金の一部または全額が支給停止されます。また、この計算方法は、60歳から64歳までの方と65歳以上の方で異なります。

在職老齢年金の支給停止基準額の変更

平成31(2019年)年4月1日より在職老齢年金の支給停止の基準となる額が次の表のとおり変更になりました。

60歳から64歳までの方の
支給停止調整変更額
46万円⇒47万円へ変更
(28万円の支給停止調整開始額については変更ありません)
65歳以上の方の
支給停止調整額
46万円⇒47万円へ変更

在職老齢年金の計算方法

在職老齢年金の計算方法は、60歳から64歳まで方と65歳以上の方で異なります。各々、次で説明します。

60歳台前半の在職老齢年金の計算方法

60歳から64歳までの方で会社等に勤め、厚生年金の被保険者となっている場合、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。
ここで、基本月額とは加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生年金等の月額、 総報酬月額相当額とは 標準報酬月額に年間賞与の1/12を加えた金額です。

在職老齢年金による調整後の年金支給月額の計算式は次のとおりです。
ここで、  支給停止額の計算の基礎となる「28万円」及び「47万円」については、それぞれ「支給停止調整開始額」及び「支給停止調整変更額」と呼ばれ、賃金や物価の変更に応じて毎年見直されます。

(1)総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円以下の場合
調整後の年金支給月額
=基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2

(2)総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円超の場合
調整後の年金支給月額
=基本月額-総報酬月額相当額÷2

(3)総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円以下の場合
調整後の年金支給月額
=基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2
+(総報酬月額相当額-47万円)}

(4)総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円超の場合
調整後の年金支給月額
=基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}

なお、 在職老齢年金を受けていた方が退職した場合は、年金額に反映されていない退職までの厚生年金に加入していた期間を追加して、年金額の再計算が行われます。

65歳以後の在職老齢年金の計算方法

65歳以上70歳未満の方がまだ会社に勤め、厚生年金保険の被保険者であるときに、65歳から支給される老齢厚生年金は、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。

在職老齢年金による調整後の年金支給月額の計算式は次のとおりです。

(1)基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合
調整後の年金支給月額
=全額支給(支給停止はありません)

(2)基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合
調整後の年金支給月額
=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2

なお、上記計算で 年金支給月額がマイナスになる場合は、老齢厚生年金(加給年金額を含む)は全額支給停止となります。 また、 在職老齢年金を受けていた方が退職した場合は、年金額に反映されていない退職までの厚生年金に加入していた期間を追加して、年金額の再計算が行われます。

関連事項

在職老齢年金との関連で加給年金と年金の繰下げ支給について説明します。

加給年金と在職老齢年金の関係

夫が65歳以降、妻が65歳未満であれば、妻が65歳になるまで夫の老齢厚生年金に加給年金が加算されます。年金の家族手当のようなイメージです。
特別支給の老齢厚生年金等の月額は加給年金額を除いた値が基本月額として扱われます。

なお、加給年金は夫の厚生年金に加算されますが、妻が65歳以上になった段階で、妻の年金に振替加算され、これが一生続きます。振替加算の年金額は少ないですが。

年金の繰下げ支給と在職老齢年金の関係

年金の繰下げ支給とは

年金の繰下げ支給とは、本来年金は65歳から満額受け取ることができますが、申出を行うことで年金の繰下げ支給ができ、繰下げの月単位で年金額が増額します。また、その増額率は一生変わりません。
年金の増額率の計算式は次のとおりです。
 
 増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までに月数)×0.007

繰下げ対象額は、原則、65歳時点の老齢厚生年金額です。ただし、65歳以後も企業等に勤め被保険者であった方ではその被保険者であった期間に在職老齢年金制度を適用したと仮定した場合に支給される老齢厚生年金額です。このため、支給調整された後の年金額が繰下げ対象額になりますので注意が必要です。
これを次の例で説明します。

在職で繰下げ支給を受ける例

65歳以降69歳まで総報酬月額相当額50万円で働き、70歳まで年金支給を繰下げる。老齢基礎年金は780,100円、老齢厚生年金は1,500,000円(基本月額12.5万円)とする。

支給停止分=(12.5万円+50万円-47万円)÷2
=7.75万円となり、在職老齢年金は4.75万円となる。
70歳まで繰下げると上記額の42%増となるので、
19,950円(月額)増額される。
つまり、退職時から42%増となるので、
老齢基礎年金=780,100円×1.42= 1,107,742円
老齢厚生年金=(12.5万円+4.75万円×42%)×12月=1,739,400円
※本来の年金額から支給分を差し引いた額に対して42%増となる。

さいごに

昨年国会で在職老齢年金制度の見直しが議論されましたので、この機会に最近の同制度の再確認をしてみました。年金をもらえる年齢になっても働いていると在職老齢年金制度で支給調整・停止があり、なんとなく割り切れない気持ちがあります。

さらに今回の確認では、65歳以上で働きつづけて、かつ年金繰下げ支給をすることも、在職老齢年金制度の支給調整で意外と年金が増えないことがわかりました。

年金財政の厳しい折、年金支給を抑える方向は気持ちとしてはわかるのですが、なんとなくすっきりとしません。在職老齢年金制度を含めて年金制度はこれからも厳しい方向へ変わっていくと思いますので、この動きに注視していきたいと思います。

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