年金生活に入ったらNISAは止めた方が良いのかも、確定申告のすすめ

年金生活に入ると収入が減少するのでNISAを活用する事が厳しくなるばかりか、かえって老後の生活を不安定にさせる事になります。株式投資等はある程度行うにしても売買で利益を出せる自信のある方以外はNISAを行ってもほとんどの方は税金的にメリットがないかもしれません。確定申告を行い、納め過ぎの税金をしっかり還付してもらいましょう。

NISAとは

簡単にNISAの概要とメリット・デメリットを説明します。

NISAの概要

NISAは、個人が上場株式や投資信託の売却益や配当を得た場合に、本来ならば税率20.315%(復興特別所得税を含んでいます)が課せられますが、一定の年間上限額以内であれば、非課税になる制度です。

現行制度の一般NISAは、新規投資額の最大は120万円/年で、最長5年間運用ができますので、最大600万円が投資できます。

また、現行制度のつみたてNISAは、新規投資額最大40万円/年、最長20年間活用できる制度で、投資額は最大800万円となります。ただし、投資対象は、あらかじめリストアップされた積立投資信託の中から選択しなければなりません。

現行制度では、もう一つジュニアNISAがありますが、2023年末で廃止になります。

NISAは、2024年から制度変更がありますが、ここでは本質では無いので現行制度で説明しています。変更後のNISAについては下記をご覧ください。

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NISAとTAX

NISAのメリットとデメリット

NISAは非課税ですが、良い事だけではありません。主なメリットとデメリットを考えてみます。

メリット

メリットは上場株式や投資信託の売却益や配当が非課税になる事です。通常は、売却益や配当に対して「所得税、復興特別所得税、住民税」が20.315%源泉徴収されますので、これが0になることは大きいです。売却益が生じていると効果が大きいです。

デメリット

デメリットは上場株式や投資信託で損失が発生した時に損益通算ができない事です。損益通算とは、損失した場合に他の利益と相殺でき、それでも損失が残っている場合に3年間繰り越す事ができる制度です。

株式の売買はリスクが高く、常に売買益を得るのは困難です。収入が減少しているなかで、大きな損失が発生すると挽回する事が困難になりますので、その後の生活に支障をきたします。

この点、比較的長期で運用する積立投資信託は利益が得やすい傾向にありますので、つみたてNISAが生まれた所以です。

しかしながら、比較的安全な積立の投資信託でも、中長期運用でなければリスクは株式売買と同じようなものですので、定年後は自分の寿命との競争になります。

後期高齢者になる前ごろから止める時期を決めておいて方が良いと考えています。

NISAでは、必ず利益がでるようにしなければ活用する意味がありません。

株式配当等の総合課税と分離課税の比較

定年後にNISAを活用した場合と活用しない場合の所得税の比較をしてみます。NISAを活用しない場合は配当控除が使える総合課税で計算します。

仮定

収入や控除等を次のように仮定します。毎年確定申告をされている方は慣れていると思いますが、そうでない方もこれから記載する手順で計算できますので、ご自身のケースに当てはめて計算して見るのも一興です。

【仮定】

  • 夫:65歳以上
  • 妻(配偶者):夫と同一生計で扶養者要件を満たしている
  • その他の扶養者:無し
  • 給与:1,200,000円(少し働いていると仮定)
  • 年金:2,000,000円
  • 株式等保有:5,000,000円(数年かけて購入、全てNISA可)
  • 株式等配当:150,000円(株式等の3%としています)
  • 社会保険料控除額:360,000円(健康保険等)
  • 地震保険料控除額:40,000円
  • 医療費控除額:100,000円

所得税額の比較

次の表は、上記仮定の下で、株式等の運用をNISAを利用しない場合の総合課税NISAを利用した場合の分離課税(税は源泉徴収ですがNISAのため課税0です)の場合を比較したものです。

株式配当等における所得税の総合課税と分離課税の比較
【株式配当等における総合課税と分離課税の比較】

結果を先に見ると、総合課税での所得税額は2,042円に対して、分離課税ではNISAにより配当課税0にも関わらず所得税額は9,700円と大きくなっています。

不思議ですね。配当控除は、数少ない税額控除なのでその効果です(住宅ローン減税も税額控除です)。

総合課税の場合の計算方法

それでは計算方法を見ていきましょう。

収入は、①給与②年金③配当の合計です。

④給与控除は、給与が「551,000~1,619,000円」の範囲の場合、550,000円が控除できます。詳細は下記をご覧ください。

⑤雑収入の公的年金等控除は、65歳以上で公的年金等が2,000,000円ですので、下記表から1,100,000円が控除できます。詳細は下記表をクリックすると国税庁の対応するページにジャンプしますので、それをご覧ください。

令和2年分以後の公的年金等に係る雑所得の速算表
【公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後、国税庁)】

所得は、各控除を差し引いて計算し、合計1,700,000円です。③配当はこの段階では控除されませんので、同じ額が⑧配当所得になります。

所得控除は、仮定した控除額です。⑫配偶者控除は380,000円⑬基礎控除は480,000円です(令和2年から)。これらから所得控除は合計1,360,000円です。

⑯課税される所得金額は340,000円(=⑨所得合計1,700,000円-⑮所得控除合計1,360,000円)です。

⑰上記の税額(所得税)を一旦計算します。下記の表は国税庁の所得税の速算表です(表をクリックすると対応するサイトへジャンプします)⑯課税される所得金額は340,000円ですので、税率5%を掛けると17,000円となります。

所得税の速算表(国税庁)
【所得税の速算表(国税庁)】

⑱配当控除がここで出てきます。配当に10%を掛けて配当控除15,000円(=③150,000×10%、本当は③の代わりに⑧ですが紛らわしいので)となります。

配当控除は5%の場合もありますが、これはつみたてNISAの対象にならないものがほとんどなので、全て10%として計算しています。

⑲差し引き所得税額は2,000円(=⑰17,000円-⑱配当控除15,000円)となります。

⑳復興特別所得税額を計算すると42円(=⑲2,000円×2.1%)となります。

㉑所得税額⑲差し引き所得税額2,000円+⑳復興特別所得税額42円で2,042円です。

分離課税の場合の計算方法

次に分離課税でNISA利用(配当への課税は0)の場合を計算してみます。上記と重複が多いので、異なる部分のみを説明します。

③配当と⑧配当所得は、NISA利用のため課税対象外ですので、0としています。

この結果、所得の⑨合計は1,550,000円となり、配当分少なくなっています

⑯課税される所得金額は190,000円となり、配当分少なくなっています

⑰上記税額も9,500円と配当分が減少した分、減額されています。

⑱配当控除はです。NISAで配当に課税されていない結果です。

⑲差し引き所得税額は9,500円と⑱配当控除が引かれない分、増加しています。

㉑所得税額は、⑲差し引き所得税額9,500円と⑳復興特別所得税額200円(=⑲×2.1%)を加算して、9,700円となります。

NISAを使うメリットが無い

総合課税の場合と分離課税の場合で比較して見ましたが、あらためてメリットとデメリットを整理して見たいと思います。

NISAを利用するメリットは、株式等の売買益や配当に税金がかからない点です。しかし、所得の低くなる年金生活では、却って総合課税にした方が税金が少なくなります。このため、株式等の売買に自信のある方しかNISAを利用するメリットはありません

NISAを利用するデメリットは、株式等売買で損失が出た場合でも損益通算ができない点です。株式等売買は、プロの方でも難しいものですので、損益通算が無いとその後の挽回が容易では無く、我々素人にはリスクが大きすぎます

さらに配当等についても総合課税で配当控除を活用した方が税金が少なくなりました

これらの結果から、NISA(つみたてNISA)をあえて使わなくとも、しっかりと確定申告を行うことが大切という結論に至りました。

さいごに

定年後になり、残りの人生が見えてくるようになりますが、少しでも財産を活かすために、株式等の配当や比較的安全な積立投資信託で運用する事は、ある年齢まで重要だと考えています。

しかし、安易にNISAを利用するのでは無く、自分の税額を試算して本当にメリットがあるのかを考えて自信を持って実施すべきだと思います

今回は所得税について考えてみました。この他に住民税や国民健康保険料についても考えなければなりません。

税金の計算は面倒ですが、実施やってみると案外面白いものですので、小遣い稼ぎだと思って、是非、トライして見てください。

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