年金生活の住民税とNISA、確定申告のすすめ

会社勤めを辞めて年金生活に入ると収入が減少しますが、住民税はどのようになるのでしょうか。年金生活に入っても株式等投資はある程度必要だと考えていますが、収入が減少している中でNISAを利用するメリットはあるのでしょうか。一事例で考えてみたいと思います。

NISAとは

NISA(少額投資非課税制度)は、個人が上場株式や投資信託の売却益や配当を得た場合に課せられる税率20.315%(復興特別所得税を含む)が非課税になる制度です。

現行のNISAには、一般NISAとつみたてNISAがあります(ジュニアNISAは2023年末で廃止)。

一般NISAは、新規投資額の最大は120万円/年で、最長5年間運用ができますので、最大600万円が投資できます

つみたてNISAは現行制度のつみたてNISAは、新規投資額最大40万円/年、最長20年間活用できる制度で、投資額は最大800万円となります。

詳しくは次の記事をご覧ください。

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NISAとTAX

また、NISAのメリットとデメリットは次のとおりです。

メリットは株式等の売却益や配当(投資信託の分配金を含む)が非課税になる事です。通常は、売却益や配当に対して20.315%源泉徴収されるのが0になります。売却益が生じていると効果が大きいです。

デメリットは株式等で損失が発生した時に損益通算ができない事です。損益通算とは、損失した場合に他の利益と相殺でき、それでも損失が残っている場合に3年間繰り越す事ができる制度です。大きく損失が発生した場合に挽回する事が困難になります。

神奈川県の住民税

この記事では、住民税について試算します。住民税は自治体による計算式が異なりますが、ここでは、私が住んでいる神奈川県のある街の課税式を基に計算してみます。

住民税とは

住民税とは、都道府県民税と市町村民税を合わせていう税金です。そして、都道府県民税と市町村民税の各々について、所得に応じて課税される所得割各世帯同一の均等割があります。

所得割は、都道府県民税4%、市町村税6%で計10%です。政令指定都市の場合は都道府県民税2%、市町村税8%で計10%と比率が変わります。

均等割については、2014年~2023年の期間に限り、復興特別税が各々500円加算されて都道府県民税1,500円、市町村税3,500円で計5,000円です。

神奈川県の場合

神奈川県では、2007年度から2021年度まで県民税の均等割で300円、所得割で0.025%税が上乗せされており、少し高いです(名目は水源環境の保全・再生に継続的に取り組むため)。

つまり、政令指定都市以外(横浜市、川崎市、相模原市)は次のとおりです。

  • 所得割:県民税4.025%、市民税6%
  • 均等割:県民税1,800円、市民税3,500円

株式配当等における配当控除とNISAの比較

仮定

住民税を計算する上での仮定を次のようにします。一例ですので、ご自身の数値に変更して計算してみるのもの面白いです。

  • 夫婦2人、共に65歳以上、妻は配偶者控除可
  • 神奈川県在住
  • 給与:1,200,000円(少し働いていると仮定)
  • 年金:2,000,000円
  • 株式等保有:5,000,000円(数年かけて購入、全てNISA可)
  • 株式等配当:150,000円(株式等の3%としています)
  • 社会保険料:360,000円(健康保険等)
  • 地震保険料:40,000円
  • 医療費控除額:100,000円

住民税額の計算

下表が、総合課税(NISA利用無し)とNISA有(源泉徴収税=0)の場合を比較したものです。

計算の大きな流れでは次のとおりです。

  1. 「収入」から「収入から控除」を差し引き、「所得」を出します。
  2. 「所得」から「所得控除」を差し引き、「⑯総所得」を出します。
  3. 「⑯総所得」から「市民税の計算」と「県民税の計算」を行います。
  4. 上記の市民税(⑲所得割額+⑳均等割額)と県民税(㉓所得割額+㉔均等割額)を合計すると「㉕住民税額」が算出されます。
年金生活者の住民税額の一例
【年金生活者の住民税額の一例】

結果をみると、総合課税での住民税額は37,200円、NISA有の住民税額は33,800円とNISA有の方が3,400円少なくなっています

総合課税の場合の計算方法

それでは計算方法を見ていきましょう。

収入は、①給与②年金③配当の合計です。

④給与控除は、給与が「551,000~1,619,000円」の範囲の場合、550,000円が控除できます。詳細は下記をご覧ください。

⑤雑収入の公的年金等控除は、65歳以上で公的年金等が2,000,000円ですので、下記表から1,100,000円が控除できます。詳細は下記表をクリックすると国税庁の対応するページにジャンプしますので、それをご覧ください。

令和2年分以後の公的年金等に係る雑所得の速算表
【公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後、国税庁)】

所得は、各控除を差し引いて計算し、合計1,700,000円です。③配当はこの段階では控除されませんので、同じ額が⑧配当所得になります。

所得控除は、仮定した控除額です。⑩社会保険料は全額控除⑪地震保険料控除は1/2控除⑫配偶者控除は330,000円⑬基礎控除は430,000円です(令和2年から)。これらから所得控除は合計1,240,000円です。

市民税の計算

課税対象の⑯総所得は460,000円(=⑨所得合計1,700,000円-⑮所得控除合計1,240,000円)となります。

⑰税額控除前所得割額は27,600円(=所得460,000円×市民税率6%)です。

⑱税額控除額8,400円の内訳は次のとおりです。

  • 調整控除:50,000円×3%=1,500円
  • 配当控除:③配当150,000円×1.6%=2,400円
  • 配当割額(配当時に源泉されている分):③配当150,000円×3%=4,500円

⑲所得割額は19,200円(=⑰税額控除前所得割額27,600円-⑱税額控除額8,400円)です。

⑳均等割額は3,500円の定額です。

県民税の計算

課税対象は同じく⑯総所得は460,000円です。

㉑税額控除前所得割額は18,515円(=所得460,000円×県民税率4.025%%)です。

㉒税額控除額5,800円の内訳は次のとおりです。

  • 調整控除:50,000円×2%=1,000円
  • 配当控除:③配当150,000円×1.2%=1,800円
  • 配当割額(配当時に源泉されている分):③配当150,000円×2%=3,000円

㉓所得割額は12,700円(=㉑税額控除前所得割額18,515円-㉒税額控除額5,800円)です。※100円未満切捨て。

㉔均等割額は1,800円の定額です。

総合課税の住民税額

㉕住民税額は(⑲所得割額+⑳均等割額)と県民税(㉓所得割額+㉔均等割額)を合計した金額ですので、次のとおりです。

㉕住民税額37,200円=住民税額は(⑲所得割額19,200円+⑳均等割額3,500円)+県民税(㉓所得割額12,700円+㉔均等割額1,800円)

NISA有の場合の計算方法

NISAを利用した配当課税負担無しの場合を計算します。上記と重複が多いので、異なる部分を説明します。

③配当と⑧配当所得は、NISA利用のため課税対象外ですので、0としています。

この結果、所得の⑨合計は1,550,000円となり、配当分少なくなっています

市民税の計算

課税対象の⑯総所得は額は310,000円となり、配当分少なくなっています。

⑰税額控除前所得割額も18,600円(=⑯総所得310,000円×6%)と配当分が減少した分、減額されています。

⑱税額控除額は調整控除分50,000円×3%=1,500円だけになります。NISAで配当に課税されていない結果です。

⑲所得割額は17,100円(=⑰税額控除前所得割額も18,600円-⑱税額控除額1,500円です。

県民税の計算

課税対象は同じく⑯総所得は310,000円です。

㉑税額控除前所得割額は12,477円(=所得310,000円×県民税率4.025%)です。

㉒税額控除額は、調整控除分50,000円×2%=1,000円だけになります。NISAで配当に課税されていない結果です。

㉓所得割額は11,400円(=㉑税額控除前所得割額12,477円-㉒税額控除額1,000円)です。※100円未満切捨て。

㉔均等割額は1,800円の定額です。

NISA有の住民税額

㉕住民税額は市民税(⑲所得割額+⑳均等割額)と県民税(㉓所得割額+㉔均等割額)を合計した金額ですので、次のとおりです。

㉕住民税額33,800円=市民税(⑲所得割額17,100円+⑳均等割額3,500円)+県民税(㉓所得割額11,400円+㉔均等割額1,800円)

比較結果をみて考える事

試算結果では、総合課税での住民税額は37,200円、NISA有の住民税額は33,800円とNISA有の方が3,400円少なくなっています。配当金額は150,000円でしたので、地方税分5%の7,500円が減税されるのですが、実際の相違は3,400円です。

これとは別に所得税額を同じ条件で試算した場合、逆に総合課税の方が7,600円以上少なかったので、これではメリットがありません。

さらに、NISAを利用すると損失発生時の損益通算ができませんので、これも大きなデメリットです。

所得税額に試算については次の記事をご覧ください。

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配当金は総合課税を活用

さいごに

今回は、年金生活で収入が低くなることを想定して、NISAの利用有無による住民税額を試算してみました。以前試算した所得税額と今回の住民税額を見るとNISA利用はメリットが無いというのが結論です。

ただ、NISA利用により配当所得が無いことになり、国民健康保険料等ではメリットがあるかもしれません。現状の結論は、このままとして次は国民健康保険料等で確認してみたいと思います。

税金や保険等については、法律改正などもあり難解ですが、頭の体操にもなりますので、わかると案外面白いものです。皆さんも是非、ご自身のケースを試算してみてください。

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