GPIFから見える老後の投資方針

GPIFは大切な年金資産の運用を行う機関で、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式を各々25%程度保有・運用し、比較的安定した収益を上げています。単純に収益だけを見ると米国市場のS&P500やNASDAQ100指数に連動する投資信託の方が良いのですが、運用機関が短くなる可能性のある老後では注意すべき事もあります。不安定な今において基本に戻り考えてみたいと思います。

GPIFの概要

一時の好調から一転して日米株式市場の乱高下が続いています。この状況では、深入りするのは危険なので、一歩引き、基本に返りGPIFの運用方針等を2020年度業務概況書を基に再確認してみたいと思います。

GPIFとは

GPIFは、年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)というのが正式名称で、日本の国民年金や厚生年金等の公的年金を運用する法人です。運用資金は約194兆円(2021年第2四半期末現在)にのぼり、年金基金としては世界最大級です。

資産配分

次の表は、第4期中期目標期間(2020年4月1日からの5カ年)における基本ポートフォリオです。国内債券、外国債券、国内株式、外国株式が各々25%とし、この値からの乖離許容幅も定められています。

GPIFの資産運用割合
【GPIFの資産運用割合】※GPIF資料から。

リスク

リスクとは価格の±変動幅のことです。GPIFでは、この値をバブル崩壊後の過去25年間のデータを用いて次の表の値を推定しています。

GPIFにおける資産のリスク(標準偏差)
【資産のリスク(標準偏差)】※GPIF資料から。

資産の相関

各資産の相関を示したので次の表です。この値もバブル崩壊後の過去25年間のデータを用いて推定しています。相関係数のプラスは同じ方向に動き、マイナスは逆の方向に動きます。

GPIFにおける資産の相関係数
【資産の相関係数】※GPIF資料から。

この相関からは次の事が言えます。

  • 国内株式と国内債券は、-0.158と緩い逆相関があります(逆の方向に動く)。
  • 国内株式と外国株式は、0.643と正相関があります(同じ方向に動く)。
  • 国内株式と外国債券は、0.060とあまり関係がありません。
  • 外国株式と外国債券は、0.585と正相関があります(同じ方向に動く)。
  • 賃金上昇率は、あまり関係がありません。

一般的に資産の安定を狙うのであれば、相関を打ち消すような保有方法が良いと言われています。このため、国内株式・外国株式を保有する場合は、国内債券や外国債券(特に外国株式を保有する場合)を保有した方が良いという結果になります。

また、値上がり益を期待する場合は、リスクの大きな国内株式や外国株式をより保有となります。ただし、値下がりのリスクもあります。特に外国株式の場合は、国内株式だけで無く外国債券も連れ安になりますので要注意です。

運用成績

次にGPIFの過去20年間にわたる運用成績を確認します。

保有・運用資産額

各資産は、運用成績により増減しますが、定期的なリバランスにより基本ポートフォリオに近づけるようにしています。資産額の2021年3月末の合計と割合は次のとおりです。

  • 全体資産:192兆1,47億円(100%)
    • 国内債券:49兆8,078億円(25.92%)
    • 外国債券:47兆2,943億円(24.61%)
    • 国内株式:47兆2,273億円(24.58%)
    • 外国株式:47兆8,180億円(24.89%)

累積収益額とインカムゲイン

次の図は、市場運用開始(2001年度)後の累積収益額とインカムゲイン(累積)です。この結果、累積収益額はプラス95兆3,363億円となりました。

GPIFにおける累積収益額とインカムゲイン(累積)との対比グラフ
【累積収益額とインカムゲイン(累積)との対比グラフ】
※GPIF資料から。

この運用実績を「実質的な運用利回り(=名目運用利回り-名目賃金上昇率)」でみると次の表のとおりです。市場運用を開始した2001年度以降の20年間の平均で、3.78%となっています。この値は、2015年度以降の長期的な運用目標である「名目賃金上昇率+1.7%」を2%も上回っています。

GPIFの実質的な運用利回りの推移
【実質的な運用利回りの推移】※GPIF資料から。

GPIFから見える老後の資産運用のヒント

GPIFの運用成績等を見てきました。これらから老後の投資方針を再度確認したいと思います。

コロナ禍での影響

GPIFの資料には、コラム「新型コロナウィルス感染症によるオルタナティブ投資への影響」の記述がありました。その中で次のような影響があったと分析しています。

  • 人の移動制限による交通、観光、商業関連産業へのマイナス影響がある。ただし、交通の中でも代替の利かない大型・大量物流の港湾施設の業績は改善している。
  • eコマースの拡大による物流産業の高度化・成長や、データ通信需要の増大を背景とした通信関連事業の成長によるプラスの影響やソフトウェア・オンラインサービスへの投資割合が大きいベンチャーキャピタル等への投資の活性化が見られた。
  • 不動産では、特に商業施設での海外観光客需要を期待した施設等、ロックダウン、営業時間停止・短縮による賃料減額・支払猶予等による影響がありましたが、これらの措置解除に伴い回復傾向がみられる。

老後の投資方針

確かに大型・大量物流では、コンテナ船価格急騰等により日本郵船や商船三井の2022年3月期の配当が10%を超えるようなことが起きています。Amozonフルフィルメントサービスの物流コストの増大による2022年1-3月期赤字決算で株価急落のニュースもありました。また、オンラインサービスではビデオ会議システムのZOOMの伸長もありました。商業施設では、アフターコロナを見据えた投資戦略も考えたいところです。

最近に米国株式市場がインフレ懸念による金融引き締めが始まっており、株価低迷期に入ったようにも見えます。しかし、長期の株主投資では却って暫くは良い仕込み時期なのかもしれません。長期的な視点では、S&P500やNASDAQ100指数連動型の投資信託が良いと考えています。

しかし、老後を考えると一度でも大きな損失を被るとリカバリーが厳しいですので、できるだけ安定した投資を考えなければならないかもしれません。

老後の投資方針をまとめると次のとおりです。

  • 投資金額は、仮に半分に下落した状態が数年続いても生活に支障がでない範囲で決める。
  • 10年以上取り崩すことなく運用を続ける事ができるかで考える。
    • 可の場合:積極的にS&P500やNASDAQ100連動型の投資信託に投資するのも一案であるが、より安定を求める場合はGPIFと同様4資産分散型の投資信託へ投資する
    • 不可の場合:債券中心の運用を考える。

この程度の目安で考えてみてはいかがでしょうか。物流、DX、コロナ禍後の商業サービス等がまだまだ面白そうですが、残りの期間を見据えなければなりません。投資額の半分ぐらいは無くなっても良いぐらいの余裕があれば、良いのではないでしょうか。

なお、4資産分散型の投資信託やNASDAQ100指数連動型の投資信託については、次の記事をご覧ください。

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さいごに

投資は面白いのですが、どう考えてみてもギャンブル的な要素が残ります。どこに歯止めを置くかは人それぞれなので、これまた難しい問題です。

老後といわず、一つの解としては、もしも保有資産が下がった場合にどれだけ我慢できるかだと思います。株式投資の場合は、投資信託と言えども、20%~50%下落する可能性が十分あります。我慢という言葉が頭に浮かぶようなら安定的な運用にすべきだと思います。

せっかく貯めた家族みんなの財産です。大切に扱いたいものです。

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