年金生活になると収入減となり、保有資産を守るためにある程度で投資が必要です。しかし、収入が低くなった状態でNISAを利用するメリットがあるのか疑問に思い、ある仮定の下で、所得税、住民税、国民健康保険料等を比較して見ました。その結果を説明します。
NISAの有無における所得税・住民税・国民健康保険料の比較
住民税、国民健康保険料を試算する場合、その税率等は自治体により異なりますので、これを含めて次のように仮定し、その比較結果をまず示します。
また、NISAの説明については、下の方にある参考記事に記載していますので、ここでは割愛します。
仮定
次が仮定した内容です。
- 夫婦2人、共に65歳以上、妻は配偶者控除可
- 神奈川県在住、政令指定都市以外
- 給与:1,200,000円(少し働いていると仮定)
- 年金:2,000,000円
- 株式等保有:5,000,000円(数年かけて購入、全てNISA可)
- 株式等配当:150,000円(株式等の3%としています)
- 社会保険料支払額:360,000円(健康保険等)
- 地震保険料支払額:40,000円
- 医療費控除額:100,000円
比較結果
次の表が、所得税額、住民税額、国民健康保険料を、株式等の配当を総合課税で試算した場合とNISA有で非課税で試算した場合のものです。
仮定した比較的低い年収では、所得税額では総合課税が有利ですが、住民税額と国民健康保険料で逆転し、合計では、NISAを利用した方が良くなっています。
考えるべき事
でもその差は、8,643円と意外と少ないですね。これらからいえるには次のような事でしょうか。
- 老後は、所得税額よりも住民税額や特に国民健康保険料の負担が大きい。住民税額や国民健康保険料は、所得に関係しない均等割額や平等割額があるためですが、その備えが必要です。
- NISAは、株式等運用で損失が発生した場合に損益通算ができないので、無理はしない。必ず利益で出るように運用する。例えば、中長期運用ができなければ利用しないととか。高配当で損失を補うような銘柄した保有しない等が考えられます。
- 少しリスクを取って(あくまでも無理をしない範囲で)運用する場合は、NISAを利用しない。
既に結論が出ていますが、次に各計算の方法について説明します。
所得税額の比較
所得税額については、総合課税での所得税額2,042円に対して、NISA有は配当課税0にも関わらず所得税額9,700円と大きくなっています。
これは、税額控除の効果が大きいためだと思われます。
計算方法については、次の記事にまとめていますので、ご興味があればご覧ください。
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住民税額の比較
住民税は、自治体により異なります。税率は、政令指定都市以外(横浜市、川崎市、相模原市)ですので、次のとおりです。
- 所得割:県民税4.025%、市民税6%
- 均等割:県民税1,800円、市民税3,500円
この結果、総合課税での住民税額37,200円に対して、NISA有の住民税額33,800円とNISA有の方が3,400円少なくなっています。所得税額と逆で、NISAが盛り返してきました。
計算方法については、次の記事にまとめていますので、ご興味があればご覧ください。
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国民健康保険料の比較
次は、国民健康保険料について比較してみます。
定年後に会社勤めをやめると健康保険の選択肢としては、一般的に①親族の扶養者になる、②国民健康保険に加入する、③任意継続被保険者制度を活用する等があります。
③任意継続被保険者制度の場合は、会社勤めの時の保険料の2倍が目安ですが(会社勤めの時は半分会社負担なので)、ここでは、②国民健康保険に加入した場合のある街での保険料を試算してみます。
年収等の仮定は他のケースと前と同じです。
ある街の国民健康保険料
国民健康保険料率は自治体により異なります。自治体によっては、「国民健康保険料税」と言っているところもありますが、「保険料」と「保険税」は費用徴収の根拠法の違いで本テーマでは実質変わりませんので、「保険料」で統一します。
ある街の保険料率等は次のとおりです(本当は私の住んでいる街です)。
保険料としては、医療分、後期支援分、介護分があり、各々、所得割額、均等割額、平等割額、そして課税限度額が決められています。
医療分とは、私たちが病気やケガをしたときの医療費の財源になる部分で、全員が納めます。
後期支援分とは、75歳以降の後期高齢者医療制度を支えるための財源になる部分で、全員が納めます。
介護分とは、介護保険制度を支えるための財源になる部分で、40歳~64歳の方が納めます。会社の健康保険では、別に介護保険料として納めていますが、国民健康保険の場合は、介護分として一緒に納めます。
そして所得割額、均等割額、平等割額、課税限度額は次のとおりです。
所得割額は、前年の所得に応じて納める金額です。計算式は「前年総所得金額等-基礎控除額33万円)×上記表の税率」です。
均等割額は、1人あたりにかかる金額です。
平等割額は、1世帯あたりにかかる金額です。
課税限度額は、上記3つ(所得割額、均等割額、平等割額)を加算して出した納める金額の上限です。
比較結果
結果が次の表のとおりで、総合課税の場合は203,800円ですが、NISA有の場合は190,900円と12,900円少なくなっています。
総合課税の場合の計算方法
計算方法は次のとおりです。
- 「収入」から「収入から控除」を差し引き、「所得」を出します。
- 「所得」から「所得控除」を差し引き、「⑪所得割の基になる所得」を出します。
- 「医療分の計算」の⑫所得割額」は、「⑪所得割の基になる所得」に国民健康保険料率等に記載されている料率を掛けて金額を出します。
- 「医療分の計算」の「⑬均等割額」は、2人分なので国民健康保険料率等に記載されている金額を2倍します。
- 「医療分の計算」の「⑭平等割額」は、1世帯分なので、国民健康保険料率等に記載されている金額を記載します。
- 同様に、「後期支援分の計算」を行います。
- 「介護分の計算」は、2人とも65歳以上なので、0です。(65歳未満の場合は、その人数で均等割額を2人とするか1人するかの計算になります)
- 上記の「医療分の計算」⑮合計、「後期支援分の計算」⑲合計、「介護分の計算」㉓合計を全て合計すると「㉔国民健康保険料(年)」が算出されます。
NISAの場合の計算方法
NISAの場合も同じ計算方法ですが、収入の「③配当」と所得の「⑧配当所得」が非課税なので0になっており、この分が全体に少なくなっています。
考えるべき事(一部再掲)
前の方で既に結論的に考えるべき事を記載しました。これを踏まえて主に以下を考慮し、年金生活時の自分の保有資産や資産運用をしなければならないと思います。
- 総合課税とNISA有の差は、8,643円と意外と少ない。
- 所得税額や住民税額よりも国民健康保険料の負担が大きく、所得税額以外は前年度の所得をベースに計算されるので、その備えが必要。
- 個別株式の売買等リスクのある資産運用では、損益通算ができないNISAは利用しない。
- NISAを利用する場合は、継続している中長期運用の積立投資信託か高配当株を暴落後の下値で購入できるような機会まで待つ(これが難しい)。
さいごに
年金生活後の所得税額、住民税額、国民健康保険料を、配当控除のある総合課税と配当の課税が0になるNISAを利用した場合で比較してみました。
結果は、NISAを利用してもそれほど大きなメリットがありませんでした。
ある年齢までは、保有資産を長く活かすために株式や投資信託での資産運用は必要だと考えていますが、損失が発生すると挽回困難になりますので、無理は禁物です。
このため、ある年齢では、リスクのある運用は避けた方が良いと思います。自分の場合は、だいたい75歳ぐらいかなと考えていますが、この時期までには自分の運用資産だけではなく、銀行・証券口座やカードの整理等も必要です。
結構手間になると思いますが、残される家族のために今から考えておきましょう。
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