配偶者居住権と配偶者短期居住権について(2019年と2020年税制改正の配偶者に関係する変更点その1)

2019年7月1日からと2020年4月1日から施行される相続関係の改正に伴い、配偶者の権利に係るいくつかの施策が創出されましたので、3回に渡り説明したいと思います。今回は、2020年4月1日から施行される、「配偶者居住権」、「配偶者短期居住権」について説明します。

配偶者に係る主な改正内容

今回の改正は、被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から、「配偶者居住権」、「配偶者短期居住権」、「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の 贈与等に関する優遇措置」、「特別寄与料制度の創設」、「遺留分制度の改正」等が創出・改正されました。

この中から「配偶者居住権」、「配偶者短期居住権」について、説明します。

配偶者居住権

自宅は比較的高額ですので、夫(被相続人)が亡くなり、遺産を相続して奥さん(配偶者)が自宅に住み続ける場合、相続財産に占める預貯金の割合が少なくなり、その後の生活が苦しくなる可能性があります。このため、改正法では、「配偶者居住権」という権利を新設し、家自体を相続しなくても、居住権で終身住み続けることができるようにしました。

次の例で具体的に説明します。

配偶者居住権

現行制度(変更前の制度)

上記事例では、遺産として自宅評価額2,000万円と預貯金3,000万円があり、相続対象の遺族は妻と子です。簡単のため、遺産の基礎控除額は除いています。
妻と子の法定相続分は、各1/2(つまり1:1)ですので、2,500万円ずつとなります。
妻がその後も自宅に住み続けるために自宅を含めて相続した場合は、妻の預貯金の相続分は500万円となりますので、その後の生活費が心配になります。

改正によるメリット

自宅の所有権が、「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けることができるようになります。「負担付き所有権」とは「配偶者居住権がついた所有権」のことです。

このため、元の所有権と比較して、「配偶者居住権」と「負担付き所有権」は共に価値が低くなりますが、妻が「配偶者居住権」により継続して自宅に住む権利を得ることができるようになりました。

ただし、 「配偶者居住権」は、住めるだけの権利で売却・賃貸等はできません。このため、価値は家の所有権より低くなりますが、反面、配偶者は預貯金等の遺産を従来より多く受け取ることができますので、より多くの生活費を受け取ることができるとみることもできます。

上記の事例でも、遺産の自宅評価額2,000万円と預貯金3,000万円を、妻が配偶者居住権1,000万円と預貯金1,500万円を相続し、子が負担付き所有権1,000万円と預貯金1,500万円を相続することができます。この相続の結果、妻の預貯金が従来500万円から1,500万円に増える結果となっています。

なお、この「配偶者居住権」は遺言等で配偶者居住権を取得させるよう指定しておくこともできます。

配偶者短期居住権

相続の発生前から妻(配偶者)が相続人(故人の夫)の家にただで住んでいた場合は(通常そうですよね)、遺産分割をしていなくても、一定期間その建物住むことができるようになります。

この期間は、誰がその建物を取得するかが確定するか、相続開始から6ヶ月が経過するかの、いずれか遅い日までですので、最低6ヶ月は住み続けることができます。

この権利は、先の「配偶者居住権」が遺産分割で確定するまで、この「配偶者短期居住権」で住むことが保障されることになりますので、「配偶者居住権」を補完する権利といえます。

参考資料

実は上記で使用したイラストは次の法務省Webサイトのものを活用させていただきました。ここには「遺言書保管法の制定」等についても解説されていますので、ご興味があればご覧ください。

さいごに

自分の子供でもいずれ独立して家庭を築き、孫が生まれ子供も親となっていきます。そのようになっていくと、自分(子供)の家族が第一に考えるようになりますので、もしかすると残された奥さん(配偶者)の生活にディメリットの影響を与える可能性があります。

今回の民法の相続に関する改正についても、過去にいろいろな問題が発生し、奥さん(配偶者)の権利を守らなければならないという主旨で、このような改正が行われたのだと推測されます。子供の事を守る事は当然として、一番お世話になっている方を第一優先に考えて、終わりを計画しましょう。

なお、「2020年税制改正に伴う配偶者に関係する変更点」については、少々ボリュームがあるので、数回に分けて記載したいと考えています。本稿の次の下記のとおりですので、よろしければご覧ください。

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