安心して定年を迎えるために必要な老後費用の算出方法(その1)、不足額の見積りイメージ

老後を安心して暮らせるために必要な資金を年金の観点で説明します。2,000万円問題等で定年までにどのくらい貯蓄しなければならないか良く話題になりますが、想定される生活費から主な収入源である年金額等を差し引く事で算出できます。年金は少し複雑ですので、「その1」でまずはイメージで説明し、具体例を「その2」で説明します。

老後の準備

老後を含めたライフプランは人それぞれですので、計画を立てる上での一般的な考え方を説明します。

老後の資産計画のステップ

老後の必要な資金を確保するためには、次のステップが必要です。

  1. 自分の現在の保有財産を整理・算出する。
  2. ライフプランに従って、老後の必要資金の目標を決める。
  3. 定めた目標値を実現できそうな資産計画・運用を行う。

ここでは、上記②の必要資金の目標値を算出する方法を、特に年金をベースに説明します。

算出する上で仮定する事項

60歳でまず、家族構成、寿命、生年月日、年金見込み額、等を仮定します。寿命は、次の図の「簡易生命表による平均余命(2019年)から、男性は60歳時点であと23.97年、女性は同じく60歳時点で29.17年ですので、夫の寿命は84歳妻の寿命は90歳と仮定します。

【仮定1】生年月日等

  • 夫:昭和32年2月生まれ、寿命:84歳、
  • 妻:昭和35年2月生まれ(夫と3歳差)、寿命:90歳、専業主婦
  • 子供は独立済

また、年金関係は、老齢厚生年金を除き、全て満額とします。老齢厚生年金は働いた分だけ支給されますので、ここではとりあえず下記の数値で仮定します。正確な数値にする場合は、ご自身の年金定期便等をご覧ください。

【仮定2】年金関係

  • 夫:会社員から60歳で定年退職 ※とりあえず退職金、企業年金は考えない。
    • 老齢基礎年金:781,700円/年(満額480月分、2020年4月基準)
    • 老齢厚生年金:1,400,000円/年
    • 加給年金:390,900円/年
  • 妻:専業主婦
    • 老齢基礎年金:781,700円(満額480月分、2020年4月基準)
    • 振替加算:26,988円/年
簡易生命表による平均余命、2019年版

老後前半の考え方

次の図は、60歳定年後に支給される年金給付のイメージです。目標の生活費を月額25万円と想定し、赤い範囲が不足する金額になります。

各々の年金給付について説明します。

老後前半の資金計画
【老後の資金計画(前半)】

夫の特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)

特別支給の老齢厚生年金とは、男性の場合は昭和36年4月1日以前生まれ、女性の場合は昭和41年4月1日以前生まれで、かつ一定の要件を満たせば、65歳前に老齢厚生年金の報酬比例部分のみが受け取れる制度です(定額の老齢基礎年金部分は65歳以降)。

夫の生年月日から、62歳から支給を受けることができます。支給額は、65歳以降からの老齢厚生年金と同じです。

なお、60歳以降も継続して厚生年金保険に加入している場合は、その給与額により支給調整されますが、今回のケースでは継続して厚生年金保険に加入していませんので、満額支給されます。

夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)

老齢厚生年金(報酬比例部分)とは、老齢基礎年金の資格期間を満たした方が65歳になった時に、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金が支給されます(先に説明したとおり、一定条件を満たすと特別支給の老齢厚生年金を65歳前から受給できます)。

年金額は、平均標準報酬月額と被保険者期間により算出されます。報酬比例部分には被保険者期間(厚生年金保険を納めている期間)の上限がありませんので、加入期間に応じて年金額が計算されます。

なお、ご自身の年金定期便の「経過的加算部分」に数値が記載されている方は、老齢基礎年金算出期間である20歳から60歳以外で厚生年金保険に加入している場合に、老齢基礎年金相当として加算されている年金になります。今回は、この後説明する老齢基礎年金額が満額(480月)としていますので、既に算出値に含まれている事になります。このため、ここでは記載しません。

少々分かり辛いですね。単純に「経過的加算部分」も含まれていると考えてください。

夫の老齢基礎年金

老齢基礎年金は、保険料を20歳から60歳までの期間納めた方が、65歳から老齢基礎年金(定額)を受給できます。保険料支払い期間480月で、満額781,700円/年(2020年4月分から)です。

加給年金

加給年金とは、夫が65歳以降、妻が65歳未満であれば(奥さんが年下でなければなりません)、妻が65歳になるまで夫の老齢厚生年金に加給年金が加算されます。まるで扶養手当ですね。

今回の事例では(夫の生年月日が昭和18年4月2日以降)、390,900円/年が加算されます。

なお、老齢厚生年金の繰下げ受給を行うとその繰下げ期間中は加給年金をもらう事はできませんので、要注意です。あくまで老齢厚生年金に付加する年金だからです。

妻の振替加算

夫が加給年金を受給している場合は、妻が65歳になった時点で加給年金が支給停止されます。しかし、その代わりに妻の老齢基礎年金に振替加算が加わります。

今回の例では(昭和34年4月2日~昭和35年4月1日)、26,988円/年が一生加算されます。少ない金額ですが、小遣いになりますのでしっかり請求しましょう。

妻の老齢基礎年金

夫のところで説明したとおりです。

老齢基礎年金は、保険料を20歳から60歳までの期間納めた方が、65歳から老齢基礎年金(定額)を受給できます。保険料支払い期間480月で、満額781,700円/年(2020年4月分から)です。

保険料支払い期間には、国民年金保険の期間はもちろん、厚生年金保険被保険者(第2号保険者)の配偶者(第3号被保険者)の期間が合算されます。

老後後半の考え方

続いて、次の図は、平均余命から仮定した夫の亡くなる84歳前後から妻の寿命90歳までの年金給付のイメージです。

夫婦2人の目標の生活費は月額25万円としていましたが、夫亡き後はその70%程度の月額17万円を生活費としています。先ほどと同様に赤い部分が不足する金額になります。

老後後半の資金計画
【老後の資金計画(後半)】

遺族厚生年金

遺族厚生年金は、18歳未満(1級、2級障碍者の場合は20歳未満)の子のある妻、およびその子、子の無い妻、夫、父母、孫、祖父母が受給可能です。遺族基礎年金と異なり、遺族厚生年金は子供のいない奥さんも受給可能です。

夫が亡くなった後は、夫の老齢厚生年金と老齢基礎年金が無くなりますが、今回のケースでは、代わりに遺族年金として妻に「夫の老齢厚生年金×3/4相当」が支給されることになります。

振替加算

先に説明したとおり、今回の例では(昭和34年4月2日~昭和35年4月1日)、26,988円/年が妻の老齢基礎年金に一生加算されます。

妻の老齢基礎年金

これも先に説明したとおりです。

老齢基礎年金は、65歳から老齢基礎年金(定額)を受給できます。保険料支払い期間480月で、満額781,700円/年(2020年4月分から)です。

その他の考慮すべき点

今回は、目標とする生活費を決め、公的年金だけの収入で老後不足するお金を見積る方法を説明しました。

さらにゆとりのある生活をおくるためには、収入を増やすか支出を減らす方法を考えなければなりません。また、あらかじめ覚悟しておかなければならない支出増の要因があります。これらを組み込む事で、さらに老後のライフプランが精度の高いものになっていきます。

これらの要因について簡単に説明します。

収入増・支出減として

主な収入増・支出減のものとして考えられる事は次のとおりです。

  • 退職金:ご自身の退職金の目安を入れると一機に収支が改善します。不明な場合は、大卒平均1,983万円(2018年データ)の前後の値を仮定してください。
  • 企業年金:勤めている会社に企業年金制度がある場合は、収入に加えます。企業年金には、終身年金と有期年金があります。私が勤めているところは、退職金の一部を原資として、本人存命中は終身年金、本人が亡くなると支給開始から20年までの有期年金に切り替わる混在型です。
  • 個人年金:公的年金以外のご自身でかけている個人年金です。受け取る期間に見込み額を収入に加えていきます。例えば、60歳~65歳前まで毎月5万円受け取れるとかです。
  • 夫の生命保険金:終身保険に入っていれば夫が亡くなった後の奥さんの生活費になりますので助けになります。この時期であればほとんど保険料は払込済の可能性があります。
  • 妻の厚生年金等:奥さんが厚生年金や旧共済年金に加入している/加入していた場合は、別途奥さんの老齢厚生年金が受給できますので、これを収入に加算します。夫が亡くなった後については、「夫の老齢厚生年金×3/4相当額」の遺族年金か「ご自身(妻)の老齢厚生年金額」の多い方を選択できます(正確には、遺族厚生年金の方が多い場合は妻の老齢厚生年金を超える分と妻の老齢厚生年金が支給されます)。両方もらうことはできません。
  • 60歳以降も働く:収支の赤字が大きい方は、継続して働く事をご検討ください。
  • 支出を減らす:同じく収支の赤字が大きい方は家計の見直しをしてスリム化を図る必要があります。

支出増の要因

主な予想できる支出増の内容は次のとおりです。これらが目標とする生活費の中に含まれていればそれで良いのですが、別出しにしている場合は、支出に組み込んでライフプランを考えなければなりません。

  • ローン残高:家のローンや車のローンです。定年後のローン残は危険ですので、極力、定年前にローンを完済するように計画してください。
  • 介護費等:ご自身や親の介護・施設等です。施設などは事前に見学や費用を調べておく必要があります。
  • 一時的支出(結婚、冠婚葬祭、自家用車、家の補修費用等):結構費用が嵩むものです。子供への援助や親せき等のお付き合いは、ある程度割り切りが必要です。また、自家用車のグレードを落としたり、一定の年齢になれば自家用車を手放す事も検討要です(ついでに運転免許返納も)。家をバリアフリーでリフォームする場合は、自治体等の資金援助があるかもしれませんので要調査です。
  • 年金減・社会保険料増等:年金や社会保険財政の悪化で年金の減少や社会保険料の増加が予想されます。このため、毎年増減率を変えて見積る事が良いと思います。例えば、年金は年率1%減、社会保険料は年率1%増とかです。

ライフプランニングの作成方法については、次の記事をご覧ください。ただし、数値はこの記事の方が最新です。

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さいごに

老後を安心して生活するためには、自分のライフプランを基に収支を見積り、赤字が大きければ事前に対策を考えておくことが重要です。定年後になってから対策を考えても打つ手は限られます。

これらを明確にすることにより、漠然とした不安が少し解消される方も多いのではないかと思います。

今回は、「その1」としてイメージで説明しましたが、次の「その2」では、具体的な計算例で説明しますので、是非、ご覧ください。

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老後の安心した生活のために(その2)

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